【前回の記事を読む】自分には好きな人がちゃんといる、もうすぐ結婚する。息子が惚れていた女性教員が言った非情な言葉とは。

老話

家族写真

不思議だ。

「駒子さん、花札やろうよ」

男性二人からお誘いがかかる。

「私、今日吉日だから、一人勝ちかもよ」

「駒子さんの吉日はいつもあてにならないけどなあ。夕飯のデザート賭けようか」

この部屋からは富士山がよく見える。まだ外は明るい、富士のシルエットが美しく見えるにはまだ数時間必要だ。富士山の手前には黄金色に輝く畑が広がる。あの夕暮れの留守番のときと同じ。いまは独りでも空の向こうには父ちゃんもあんちゃんも家族みんなが私を待っている。向こうも夕餉の支度などで、大忙しにしているだろう。

湖上の鈴音

北国は凍てつく冬が長い。しかも春から夏、秋の季節の移ろいは走り抜けるが如く早い。もたもたしていると季節に置いていかれる。季節に追われるように働き、霜の降りる前に農作物の収穫を終えると、それでやっと一息つける。今年は昨年の凶作に比べればまあまあの収穫か。

ハルは八人兄弟の長女、十九歳だが、母親代わりとしてよく妹弟の面倒を見てきた。貧乏人の子だくさん、近所もどんぐりの背比べ、似たような貧乏暮らしの村。年寄りから子どもまで家族全員、大勢の人手で農作業をこなす。

種まき、草取り、刈り取り、脱穀と、畑仕事は自分たちでまかなうのが基本。力仕事は農耕馬が大事な働き手、ほかに鶏やめん羊などの家畜も多少飼い、このころラジオや新聞で神武景気と甘い夢のような話が出始めたが、ハルたちの暮らしには何の影響もしてこなかった。

ハルは芯の強い娘だが、派手なことは好まず、何でもコツコツと仕上げるのが好きなタイプ。畑仕事のない冬場には洋裁や編み物などの習い事もしてきた。手芸など物をこしらえることが得意で、どんな小さな生地でも大切に取っておいた。

いままではそれがハルの唯一の楽しみだった。