老話

家族写真

あんちゃんも女教師に対して自信がなかったのだろう。結果的に父ちゃんの薦める女性と見合い写真を見ただけで結婚式を挙げた。結婚式から一週間後に初の里帰りをして、お嫁さんの実家に新夫婦で挨拶に顔を出す習わしがあった。

あんちゃんはそこで初めて義父母とじっくり対面した。嫁の母親は勝気な人で、娘を大事にしてくれとあんちゃんに迫った。あんちゃんはきつい要望を平気で言う実家に二度と顔を出さなくなった。

農家の嫁がどれほどしんどいか、あんちゃんは知っていた。だから簡単に安請け合いなどできなかったのだ。ココの家の居間から麦畑が見える。秋蒔き小麦の畑だ。夏のこの時期は、もうすぐ刈り取りの季節だ。小麦が金色に色づき、風になびいている。

ココがいない。母ちゃんがふと部屋を覗くと空っぽだった。確か土手の草叢で一人遊んでいたはずなのに。大人は皆忙しく、ココが何をしているか気にも留めていなかった。

家族全員が大騒ぎして探すことになった。家じゅう、押し入れから、納戸、戸棚の中まで念入りに、家畜の藁の中や、井戸の中、沢の池も確認した。もう三時間も探している。

「人さらいかしら」

「こんな田舎に。誰も来なかったよ」

「警察に届けないとだね」

母ちゃんは先祖のお墓に行って、ココの無事を祈った。帰り道、辻のお地蔵さんにもお願いして帰ろうと両手を合わせたとき、お地蔵さんの後ろの麦畑で何か動いた。

うーんと寝起きのときのような子どもの声がしたみたいだ。母ちゃんは恐る恐るお地蔵さんの後ろを覗いてみた。何とココはそこに寝ていた。

汗をかき、疲れ果て、涼しいお地蔵さんの陰でつい寝込んでいたのだろう。呆れた子だ、と母ちゃんは安堵の息を漏らした。

麦刈りも終わり、盆休み。ココはあんちゃんのお嫁さんのフキ子さんとオホーツクの浜辺の駅で汽車を待っていた。砂浜にはきれいな貝が落ちている。ピンク色の貝はさくら貝だろうか。次々見つけてポケットの中に入れていた。

海風がフキ子さんの水玉の白いワンピースの裾を揺らす。海の向こうに何かあるのか、フキ子さんは放心した表情で、海と空の間を見つめ続け、大きなため息をついていた。