【前回の記事を読む】「ここで人が死んだんだって」引っ越し早々“怖い妄想”が止まらない私を、彼が笑いかけたその時。ピルルル、ピルルル…非通知だ。
創作実話 沢市 さとみ
至るまでに時間はかからなかった。ときどき無言電話がかかってくる。夜はかすかに赤ん坊の声を聞いた。眠っている私の顔周りを、髪の毛の先端が擦っていく感触まで鮮明に残っている。
気のせいに違いない。実際におこらないから妄想は怖いのだ。電話は間違い電話。赤ん坊の声は偶然。髪の毛の感触はただの夢。考えないようにすればするほど私のような人間は神経過敏になる。部屋のどこにいても落ち着かない。部屋の広さまで気になってくる。日の差しにくい薄暗い空間が私を見つめている。
今夜、篤に来てもらおう。テーブルのスマホを取る直前、スマホが高らかに鳴いた。バイブの震動でどんどん体をずらして今にも落ちそうなスマホを掬いあげる。非通知ではない。知らない番号だ。
「もしもし」
ほー……ほー……という息遣いがする。
「もしもし?」
「ほー……」
「何ですか?」
「ほー……」
「切りますよ」
遠かった声が、不意に近くなった。それは私の耳元で。
「おっぷ、う、るるぅあ」
驚いてスマホから耳を離すと同時にインターホンが鳴った。低い構えで振り返る私の心臓は高鳴る。このタイミングは絶対に幽霊。絶対に幽霊。絶対に───