「飯島です」
白い顔の飯島さんが、青色の唇を細々と開いた。完全に血の気を失っている。私は彼女の首に巻かれた包帯を気にして尋ねてみたが、返事はなく、代わりに「引っ越すんです」と言った。「ここ出るって話……聞いたことありますか……」小さな声で飯島さんが言う。
「ありますが……」
「女の人が、帰ってきたところを、首を切られて殺されたって……私の部屋かもしれません」飯島さんの顔がよく見えない。
「いえ、私の部屋かも……だって」
「部屋の中が、血の匂いするんです」
「ええ……」
「たぶん、自分を殺した人間を探しているんですよ」わずかに見える唇が歪み、笑う。
それから飯島さんは、小声で何か言った。聞き取ろうと思わず首を前へ出した私を待ち構えていたかのように、顎の下に飯島さんが顔を傾けた。ぶわりと鉄臭さが増す。転げ落ちそうに白い眼玉が私を見上げる。
「おっぷ、う、るるぅあ」
飯島さんを追い出した直後、すぐに篤に電話した。気味の悪い家になんか一秒とていられない。仕事中にもかかわらず、篤が電話に出たのは奇跡だった。
「話はわかったけど、今どこにいるの?」
「近くのカフェにいる。家に着いたら教えて。おかしいの、私が言ったとおりになってる」
「怖がり。わかったよ」