【前回の記事を読む】「これはれっきとした殺人事件だ」刻一刻と迫るタイムリミット。しかし、電話相手の警官は事の重大さを理解しておらず…
六 午後……十二時五十五分 ドリームアイ・ゴンドラ内
「そして二度目の入電が今しがたあった。『小人』は警察への通報を俺に要求してきた。自分との会話の内容を含め、事実の情報を流せと示唆し、その交渉役に俺を選んだとも言った」
『二度目の連絡……と。でも、なぜあなたが交渉役なんですか?』
「どうやら、落ちたゴンドラには俺が乗るはずだったかららしい。滝口さんに聞けば裏は取れるだろうが、俺達は亡くなった人に順番を譲ったんだ。だから俺が生き残ったのは運命だ、とそう言った」
『ああ、そんな話がありましたね。聞いてます』
「それに、『小人』は警察の内部情報も知っていた。そっちの捜査責任者のことや進捗状況も把握しているようだった。どちらにしても、このドリームアイの建築構造にかなり精通した人間のはずだ」
『内部情報って何です?』
「そっちの陣頭指揮を執っているのが、警視庁捜査一課の貝崎啓一だと」
『えっ、犯人がそんな情報を握ってるんですか?』
「ああ、だから内部情報の漏洩がありえる」
どうにも口も態度も軽そうな男だ、と仲山は思った。情報分析官は機密情報を扱うが故に、本来守秘義務については厳密でなければならない。
貝崎は優秀な部下を好むのに、なぜこんな若者を下に置いているのだろうか、と仲山は疑問に思わずにはいられなかった。
しかし、軽い気持ちで行動してくれるのなら、こちらの依頼も聞いてくれるかもしれないと仲山は気を取り直した。