【前回の記事を読む】「他の乗客を生かすも殺すも君次第だ」犯人からの通信…なぜ俺なんだ? なぜ俺はあの夫婦に代わって生き残った? 目的はなんだ?
六 午後……十二時五十五分 ドリームアイ・ゴンドラ内
『あ、そうです。私は警視庁の情報分析官の金森といいます。今この事故の捜査をしている捜査官の一人です。乗客からの入電があるかもしれないと待機してました』
「さっき一時的に通話が使えなくなったが、そちらも?」
『ああそれは、ドリームアイ真下の運営局が停電したからですね。その後移動して、今はサブの運営局にいます』
「停電? システムの乗っ取りではなく?」
『なんで乗っ取りのことを知ってるんですか? ってことは、あなたが観覧車ジャックとか言い出した仲山さんですか』
そうだ、と仲山は頷いた。この言われ方では、自分は信用されていないな、と思う。
「ところで、警視庁はこれが事故だと思っているのか? これはれっきとした殺人事件だ。滝口という女性スタッフもそう証言したはずだ。もみ消したのか?」
『もみ消しとか、とんでもないですよ。その証言は確かに聞きましたが、現段階では事故と事件の両方から捜査をしています。情報も限られており、まだ判断材料も少ないものでこちらも手探(てさぐ)りな状況です』
「判断材料? 何を悠長(ゆうちょう)なことを言ってるんだ。こっちは一刻を争う状況だ。ここにいる人の不安はそっちの想像を超えているぞ」
『ええと、とにかく落ち着いてください』
仲山がヒートアップするのと反対に、金森が段々と落ち着いてきて、冷静な態度になっていった。
「まあいい、金森さんだっけか。とにかく人と話せてよかった」
そう言いながら、仲山は素早く計算を働かせた。貝崎と話をする前に、別の人間とコンタクトが取れたのは朗報(ろうほう)かもしれないと思ったのだ。仲山の立場としては、貝崎には言えない話も多いのだった。できれば滝口だけではなく、この金森という男にも動いてもらいたいと仲山は考え始めた。
「俺の名前は仲山秀夫。現在、娘と二人でゴンドラの中にいる。頂上に近い位置にあるゴンドラだ。俺達に時間はあまり多くはない、大まかな現在の状況を伝えたい。あんたの言う判断材料になるはずだから、この通話は記録してくれ」
『はい、わかりました。お願いします』
「まず俺達がこの巨大展望型観覧車『ドリームアイ』に乗った時刻は午前十一時半頃、それから約三十分で頂上付近に来た。そして十一時五十五分、ドリームアイは運行を停止した。
その後すぐ滝口さんから緊急のアナウンスが流れた。そのまま待っていると、正午に始まる時計台の人形劇が始まった。人形劇の時間は約五分。それから更に二分後、もう一度ゴンドラ全体にアナウンスが流れた」