『はあ……アナウンスの後にもう一度ですか』

「それが『小人』と名乗る犯人からの最初の入電だ。そしてゴンドラが落下した」

『ええと、ちょっと待ってください、そもそも、どうしてあなたはそんなにも正確な時間を言えるんでしょうか。普通そんなに記憶してないと思いますが』

「ああ、杜撰(ずさん)な思考が常識とは警視庁は相変わらずだな。俺のこれは性格だ。日頃からずっと時計を見てるし、全て計画を立てるのが癖だ。行く場所は必ず下見するし、どんな場所にも三十分前にいなければ不安で死にたくなる。

この神経質な性格のおかげで喧嘩を繰り返した妻とは離婚、娘にも愛想(あいそ)を尽かされそうな瀬戸際(せとぎわ)だ。これが詳しく時間を覚えている理由だが、何か文句あるか?」

『い、いえ、何だかすみません』

金森が電話口で頭を下げた。

「いや……こっちも取り乱して申し訳ない」

『あの、その言い方だと警視庁についてお詳しいようで?』

「ああ、元捜査員だ」

『あ、そうなんですか! いや~よかった。それは助かります。うちの上司って怖いんで、正確な情報を教えてもらえると嬉しいですねぇ』

急に人なつこい言葉に変わった金森に仲山は面食らった。おそらく上司とは貝崎のことだろう。どうやら金森は、上司にはあまりいい感情を抱いていないらしい。取り込めるか?と考えながら仲山は話し始める。

「失礼。こんな類(るい)を見ない状況で少し混乱していた。色々あって今は一市民だし、警視庁という組織は信用してないが、個人単位でみれば優秀な捜査員が揃っていると信じている。そこの情報分析官さんだ。ぜひ、助けていただきたい」

『あ、いえいえ、そんな。もちろん、市民のために働くのが警察の仕事ですから。それで、ええと……』

「話を戻そう。さっきもだが、その『小人』と名乗る人物から入電があった。音声は何か機械のようなものを使って変えていたから性別も年齢も不明だ。そしてその人物はこう言った、『君達には時計の針になってもらう』と」

『時計の針?』

「意味はわからない」

『ですよねぇ』

「あとは、断言はできないが、その『小人』はドリームアイを自由自在に操れる可能性がある。なぜなら俺達に喜劇の始まりだと予告してからゴンドラを落とした。この時系列の一致は偶然(ぐうぜん)ではありえないだろう?」

金森はメモを取りながら頷く。

 

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