【前回の記事を読む】「ありがとうと言ってくれてありがとう」―先の「ありがとう」は入居者の、後のは入居者の感謝を聞いて喜ぶ介護側のありがとう
第一章 介護は一方的に提供されるものではない
幸せの循環型ホーム
すると入居者の尾沢さんから「その上に『幸せの』と入れたらいいですね」と提言をいただいた。彼は日々のスタッフの言動はもちろん私にも信頼をよせてくれて多くの情報をくれるようになった。
もうひとり、私には仲間がいた。隣りの部屋の弘田さんだ。隣りの部屋と言ったが、階が違ってエレベーターを使わなければならないとつい億劫になるからだ。彼女は私が見ているのと同じ目線で、ある時は心配し、ある時は喜んでくれる。
こうした仲間がいると喜びは倍増し失望や悲しみは軽減されるからだ。特に頭にきた時など「マグマが噴き出しそうだから聞いてね」と言って話すとそのマグマはなんとか噴出することなく多少なりとも鎮まるので感情に走る欠点を持つ私には彼女に助けられることが多い。
かつて入居者の仲間だった鳥越さんは「いいと思ったことを実行し、それを続けることはとても素晴らしい」と言って常にエールを送ってくれた。仲間は仲間を支え合い、それは思わぬ波紋を広げてくれる。
介護は決して一方的に提供されるものではなく大勢の人々を巻きこんでいく。それが「幸せの循環型ホーム」である。
ホーム小話2
なんでも買っていいわよ
エクボばあちゃんが言った。
「先日、娘が来て、お母さん、何でも買っていいわよと言ったの。それで私はつい、すみませんね、ありがとうと言ってしまったけど、そのお金、私のものなのよ???」
(こうした逆転劇、ホームでは日常茶飯事である)