父の日誌から書き写してきた文字を糸井教授に見せる。
「見たことのない文字だな。今、それ持っていますか?」
「はい、一部ですが、持ってきました」
その文字を見せるが、糸井教授は知らないと首を振る。
「そうですか。でも父の研究の目的がわかったので、良かったです」
「これ、もらっておいて良い?」と糸井教授は文字が書かれたメモをつかんだ。
「もちろんです。何かわかったら連絡ください」
マルコ・ポーロは、1254年にベネチア共和国で商人の家に生まれた。父に連れられて1271年、当時、世界を席巻していたモンゴル帝国・元に行く。そして第5代皇帝フビライ・ハンに気にいられ24年間に渡り元に滞在し、要職に就いている。
そのあと、ベネチアに戻り、ジェノア共和国との戦争に参加、捕虜として投獄されている時に、囚人仲間に半生を話したことがあとに「東方見聞録」として世に出ることになるのである。
この「東方見聞録」は、中国のみならずマルコ・ポーロが旅をした地域の当時の様子を知る貴重な資料となっている。ただ、実際の業務やプライベートはほとんど触れられておらず神秘的な内容の箇所も多い。
父は、このマルコ・ポーロに取りつかれ半生をその研究に費やした。そして、マルコ・ポーロの足跡を追っている途中で事故にあい、人生を終えたのだ。
今僕は、自分も父の足跡とマルコ・ポーロについて追いかけたいという強い衝動に駆られている。