【前回の記事を読む】亡くなった母の遺品整理中に知ったこと、教会への寄付の履歴…「母はなぜ、キリスト教徒になったのでしょうか?」
第一章 母の死と父の面影
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日曜日は礼拝の日だ。終わるまで教会の前で待つことにする。2時間ほど経つと、礼拝が終わり、教会から人が出てきた。出てくる教徒たちと一緒に神父が見える。
その神父の横に車椅子の老婆が見える。鈴木加奈子さんだ。これでつながった。母とはこの教会で知り合ったに違いない。
「神父さん、鈴木さん、こんにちは」
神父さんと鈴木さんは、僕の顔を見て驚いている。
「竜神さん、本当に我が家には何もないのです」
「いえ、必ずあるはずです。母は僕に父の日誌を見せたくないので、鈴木さんにお願いして預かってもらっているのではないですか?」
「もう隠せないのではないですか、加奈子さん。それにしても健さんは素晴らしい調査能力をお持ちですね。お父さん譲りなのでしょうね」
「住谷神父……」
「母がお願いして、預かっていただいているのですね」
「そうです。あなたのことを明子さんはとても心配されていました。日誌を読んだら、あの子も亮さんと同じように調査へ行ってしまうのではと恐れていました」
「やはりそうでしたか……でも父の日誌を私へ戻してください。お願いします」
住谷神父は鈴木さんを見て、うなずく。
「わかりました。家に戻り、すぐにあなたの家へ送ります。でもくれぐれも、明子さんの恐れていたことを理解して行動してください」と鈴木さんは心配顔でそう念を押した。
今日、ダンボール箱が届く―。朝から心待ちにしていて、外で音がする度に窓のところに行って、宅配業者のトラックが来てないか確認する。何度、窓の外を見たことか、午後になって宅配業者のトラックが止まるとすぐに飛び出していってダンボール箱をもらう。
2箱のダンボール箱には、日誌と父の研究資料がぎっしりと詰まっていた。日誌は全部で247冊もある。膨大な量だ。
呼び鈴が鳴る。さっき京子に連絡したので、彼女が来たのだ。
「ついに日誌があったんだって、明子おばさんが隠していた場所を捜し出すなんて名探偵ね」
「必死に探したよ」
「早く見てみようよ。興奮するね」
確かに興奮している。ここに何が書かれているかわからないが、自分の運命を変えるものが書かれている気がする。僕がまず手にとった日誌は、父が一番最初にマルコ・ポーロの生地であるベネチアを訪ねたところから書いてある。
その時、京子が「ねえ、これ何?」と言って、見たことのない文字で書かれた日誌を見せた。後半の日誌はすべてこの文字で書かれている。