【前回の記事を読む】「彼の息子と会えるなんて!」父をよく知っているというモンゴルの大学教授は僕に会いたいようで……

第三章 父の研究の謎を追ってモンゴルへ

1

ウランバートルの街は都会で、車で通る間も鉄板焼きの店や寿司屋の日本語の看板も出ている。僕は、街を見るのが好きだ。時間があれば歩いて街の中を探索したい。そんなことを考えながら街並みを見ていると大きなキャンパスのようなものが見えてきた。モンゴル国立大学だ。

車が、あるビルの前で停まると、何人かの男の人がそこで待っている。僕が車から降りると、その中の1人が声をかけてくれた。

「ケン?」

「はい」

「私がポルジギンです」

「はじめまして、亮の息子の健です」

教授も日本人に似ている顔立ちで、親近感が湧く。「顔がやはり似ている」と教授は懐かしそうに話す。

「似てるって」と京子は冷やかし気味な顔で言う。

教授の部屋に案内される。本や論文でびっしりの部屋だ。決して狭くないが、大量の書物で圧迫感がある。席に着くと、教授は日本の事や僕が何をしているかなど訊いてきたが、僕は単刀直入に聞きたいことを尋ねようと思っていた。

もちろん京子を介してだが、どんどん訊きたいことを矢継ぎ早に訊いたが、教授も同じように間髪を入れず答えてくれた。

「先生は、父と初めて会ったのはいつですか?」

「リョウと中国の視察が一緒だったから1988年、今から30年以上も前だ」

「父は当時マルコ・ポーロの研究をしていたのですか?」

「マルコ・ポーロというよりフビライ・ハンの研究をしていた。その中で、マルコ・ポーロもひとつの研究調査対象だった」

「先生は、あの事実がわかったことを知っているんですよね?」

「あの事実というのは、君たちの先祖がマルコ・ポーロだということだね」

「そうです。それに対して父はどう思っていたのでしょうか?」

「ずっと信じられないと思っていたようだ。でも、これも私の運命なんだろうと冷静だった。私の方が初めて聞いた時、興奮したよ」

「丁度、その頃から父は、僕が見たことのない文字で日誌を書いてます。先生は何故そんなことを父がしたのか知ってますか?」

その文字を見せると、ポルジギン教授は、ハッとした顔をして、初めてゆっくりしゃべりだした。「これは……どの民族かわからないが、南方系の少数民族の文字だと思う。事故に遭ったのが雲南だから、雲南の少数民族の字ではないか」

しばらく沈黙が続く。

「父が事故に遭う直前、何を調べていたか知ってますか?」

教授は困惑した表情で、ゆっくり話し出した。

「その調査のせいで事故に遭ったのかもしれない」

「それはなんの調査なのですか? 教えてください」

「お父さんは、私があなたにそれを教えるのは望まないかもしれない」

「いえ、これが僕の運命だと思っています。お願いします」

「ジパングだよ」

予想もしない答えで一瞬言葉を失った。

「ジパング?」

「そうだ。黄金の国と呼ばれているジパングだ」

「ジパングは日本じゃないですか」

「昔から東方見聞録で書かれているジパングは日本だということになっているが、整合性がとれてない箇所もあるのも事実」

「仮にジパングが日本ではなく、別の国だったとしても凄い発見なんでしょうか?」「それだけでも、凄いことだが、お父さんは何かを発見したに違いない。だから危険を感じて、日誌を暗号のような文字で書いていたんだろう」

「それはどんな発見ですか?」

「黄金の国がいまでも人知れずあるとしたら……」

「黄金の国が、人知れず存在する、そんなことありえますか?」

「普通に考えるとありえないが、権力者が故意に隠したとか、地震とかで地中に埋まっているとかね」

また、思考回路が止まってしまった。「ジパング? 黄金の国? 父はそれで事故に遭った」もう僕の頭では対応できなくなっていた。

僕の状態に気づいたようで、ポルジギン教授は、キャシーの方を向き何かを指示した。

「おなかが空いたでしょう。夕食に行きましょう」