「誰かに見られた時でも簡単にはわからないようにしていたにちがいない」
「ますます神秘的で楽しくなってきた」
「とにかく父の研究や調査の目的を把握しよう。そのためには、最初から見ていかないとわからない」
日誌はきちんと整理されてダンボール箱に入っていたので、順番に読むのは容易だった。僕が生まれた時のことも書かれている。日誌でもあり、研究ノートのような側面もある。
「8月13日 今日、息子が生まれた。健と命名した。明子と話し合って決めた。健やかに育って欲しいという願いをこめて。息子ができたのだ、さらに研究に力が入る」
「9月10日 まだ首もすわってない健をおいて、中国の蘇州、楊州と雲南に調査へ行く。後ろ髪をひかれる」
「9月30日 やっと帰国した。健は、だいぶ太ったが、健康に丈夫に育っている。この調査で、驚くべきことがわかったが、まだ確証が持てない。裏づけ調査を、慎重にしないといけないが、どういう風に裏づけ調査をするか、簡単ではない。あまりに古く資料もない」
「10月30日 一カ月、調査を多方面で行うが、全く進展なし。ベネチアに行ってみて、ポーロ家の人に会うしかないか」
「11月25日 やっとイタリアの学者の知人をたどって、ポーロ家の人に会えそうだ」
「12月20日 いよいよベネチアだ。町はクリスマスの飾りつけで、とても綺麗だ。これから、ポーロ家の人と会うので、緊張と興奮で、地に足がついてない感じだ」
「12月21日 ポーロ家の人は、みんな驚いたようだが、我が先祖から家宝としてきた金貨を見せると、一部の人を除いて信用してもらったようだ。ただ、自分が調査して知った事実が、ある程度、裏付けられたわけだが、自分でまだ消化しきれてない。一部の人には、警戒されてた。また、明後日もパーティーに呼んでいただいた。そこで、また色々話そうと思う」
金貨は、あの貸金庫に入っていたのに違いない―。
「12月23日 パーティーに出席したが、そこで、ポーロ家の少年にジパングを探しているのか、と聞かれる。それを聞いたポーロ家の人は、かなり焦っていた。どういうことだろう。今日はたいした話ができなかった、残念」
「12月25日 もっと話をしたかったが、日本に帰らないといけない。糸井先生やモンゴル大のポルジギン先生にも会って今回起こったことの話をして、一緒に調査研究をできないか相談してみよう」
「12月27日 帰国すると可愛い息子が微笑みで迎えてくれた。幸せを実感する。今日は、午後、糸井先生と打ち合わせ」
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