『トスカ』は素晴らしかった。
6時に再び良子を訪ねた。
ところが良子は、朝と見違えて元気であった。私はほっとした。
痛み止めを、飲み薬でなく点滴にしてもらったら随分楽になって、オナラが3度出た、と言った。
「出たか!」
「出た」
私は両手を上げた。
『トスカ』には思い出がある。最初に知ったのは、「星も光りぬ」であった。
ジュゼッペ・ディ・ステファーノが歌ったシングル盤(EP盤とも言った。基本的に片面1曲。星も光りぬの裏面に何が入っていたか、記憶にない)で、見事にきれいなテナーであった。マリア・カラスの最後の恋人と言われている。
2012年の4月末から5月にかけて、私たち夫婦はミラノを拠点にイタリアを旅した。
あい子を介添役にした。あい子はドイツで3年ほど働いた経験があり、英語とドイツ語はそれなりに話せるので便利である。ホテルはミラノに固定し、湖水地方とか、パルマ、ヴェルディの古里等を訪ねた。その間にスカラ座では『トスカ』をやっていた。是非観たいと思った。
出発前に公式価格の3倍条件(インターネット・ダフ屋か)で頼んでおいたのであるが、出発直前に、取得不能のメールがきた。当日券で天井桟敷でも手に入れば、と思いながら出発した。
4月29日、ホテルのコンシェルジュに再確認したが、チケットは完売とのことであった。肩をすぼめ両手を広げて、どうにもならんという顔をした。
スカラ座の当日券売り場に並ぶつもりで、その前にチケットセンターへ寄った。Duomo駅地下街にスカラ座のチケットセンターはある。
当日券の申込場所はスカラ座そのものの左側にある。チケットセンターは意外に閑散としていた。私もいわばチケット完売を最終確認のため、未練でそこに寄ったのある。
一人だけ先客がいて、私からすれば随分長話をしていた。若干イライラした。
その男が去って、あい子が進み、当日券はあるかと訊ねた。