【前回の記事を読む】「今夜直ちに手術するしかない」!? 退院予定日が決まるほど回復していたはずなのに。病院に到着すると、妻がICUで…
第四章 2015年(後)
11月26日(木)
手術の翌日
未明に雨の音がしていた。出社のあい子を駅に降ろして、病院へ向かった、その頃、雨はほとんど上がっていた。
8時前に病室に入った。部屋に灯りはなく、ベッドの上は空であった。
10時過ぎにナースが来て、11時頃に集中治療室へ迎えに行く予定です、と知らせてくれた。良子が戻ったのは11時15分だった。さすが、ぐったりしていた。私はすぐに部屋を出され、必要作業終了のあと呼ばれたのは30分後、11時45分であった。
良子は鼻からチューブを入れられ、数本の点滴針が刺されていた。良子は確かに疲れてはいるのだろうが、それ以上に“うんざり”しているように思った。
最初は、9日の退院予定が13日に伸びた。元気な生活をほんの少し味わったら、18日に再入院に追い込まれた。それが26日に退院できると思ったら、その前日に、更に大きな手術をすることになったのである。
「よくがんばったね」と私は言った。良子は無表情だった。
「退院したあとでなくて、良かったね」
これにも良子は反応を示さなかった。
「しゃべらなくていいよ。聞くだけでいい」
良子は指を唇に当て、私に訴えた。水を求めていることは分かったが、水差しがどこにもなかった。