【前回の記事を読む】須佐之男命は大蛇の上に飛び乗り、急所を突きずたずたに切り裂いた。体からは続々と血があふれ出し、斐伊川は真っ赤に染まったという。

第一話 長老の予言

5 出雲八重垣

この地に初めて宮殿を建てられた時、その地より雲が立ち上ったといわれる。そこで歌を詠まれた。その歌をお聞かせしよう」

 

八雲起(やくもた)つ 出雲八重垣(いずもやへがき)

妻籠(つまご)みに 八重垣作(やへがきつく)る

その八重垣(やへがき)を                          (引用文献1)

 

[現代語訳]

雲が幾重にも立ち上がる 八雲起つ出雲の地に

八重の垣根を 妻を籠もらせるために八重垣をこしらえるその八重垣がこれなのだ

 

洞窟内に朗々と響く、美しい節まわしの歌謡が数回復唱された。小碓たちの心も実にすがすがしく感じられた。この爺の歌を最後に聴いて二人は洞窟を後にした。

第二話 機織り工房の皇女

1 纏向の賑わい

纏向(まきむく)の日代 (ひのしろ)の地(現在の奈良県桜井市)に、大王 (おおきみ)(大帯日子淤斯呂和気命 (おほたらしひこおしろわけのみこと):後の景行天皇)の宮殿があった。

宮殿の背後には神々が鎮座される三輪山が聳えており、山の麓には箸墓 (はしはか)と称される巨大な墳墓が建造されていた。小碓(おうす)たちの時代から、さらに百年以上前、先々代の大王(崇神天皇)のころに纒向が宮城の地に定められた。このころにこの大きな墳墓は造られたとされている。

三輪山には、大王一族の守り神である天つ神、国つ神が鎮座されている。神職の祭祀奉納以外には、山に登ることは許されていない。山そのものが壮大な神の社(やしろ)なのであった。