「それを承知の上なら、射ちますよ」

というようなことで引き受けてもらった。

その後、良子一人で通うようになっても、「効かないよ」と言われたようであるが、「はいはい」と笑っていると、もう言わなくなったそうである。

今日はB液を射ってもらった。良子は、30日に入院2日に手術、9日の退院であることを話し、「その間は来られません。次は9日に来ます」と言ったら、

「どういう手術をするの?」

「腹腔鏡下です」

「ひとつ間違えば死ぬなあ、とT先生は言うたわ。ははは」

と良子は報告した。

「オモシロイ先生やわ」

私も2、3度T医院を訪ねて、ちょっと普通と違うことに気付いた。

商売気がまったくないのである。

看護師さんはいない。事務の人もいない(いることもある)。

従って先生が診察し投薬し会計をする。患者の数がまた、それに見合っている。

よく観察してみると私より年上のようで、ひょっとすれば80に近いのかもしれない。そしてこのマンションそのものが、T先生の所有なのではないかと思えてきた。

どうも隠居仕事というか、趣味でやっているようなところがある。

自分が射つクスリを、「効かないよ」とか、これから手術を受ける者に、「間違えば死ぬよ」とか、非常識のようにも思えるが、良子は笑いながら報告するし私も笑いながら聞く。

何となく風格のある先生で、この先生には長生きをして頂き、丸山ワクチンを射ち続けてもらわなければならない。

次回更新は4月9日(水)、20時の予定です。

 

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