葉ふるい

今年の梅雨明けは遅かった。

七月の終わりごろまで梅雨は明けず、日照は普通の年の半分以下だとか、気温も四十度を超えるのは何年ぶりだとか、気象予報士はテレビでことさら異常気象を訴える。夕子は今までの中で一番暑く、しのぎにくい夏になるのではないかとおもう。

一旦、梅雨が明けると、今度は何日も雨が降らない日が続いた。

川の水量が減ったせいか、桜の園の中を流れる小川の水が極端に少なくなりちょろちょろとなった。過去に何回か悠輔と経験したできごとだった。

夕子は園内にある干ばつ用に作られた、普段は枯山水のしつらえの枯れ池に水を溜め、そこに小型ポンプを据え、ホースで散水した。ホースの届かないところはバケツで水を運び、柄杓(ひしゃく)で水をやる。それでも桜の園の桜は葉が少し巻き気味になった。

遠雷が聞こえると、夕子は雷雨が近づくことを祈った。もともと稲妻は植物にとって雨神が近づいてきた証拠なのだ。

しかし、遠雷ばかりで一向降る気配はない。

桜の園の桜が一斉に葉をふるいだした。水が足りないとまず葉を巻いて耐える。

やがて自分の身丈にあった葉の量にするため、桜は自ら葉を落とし始める。生き残るために水の量に合わせて光合成をする大切な葉を総量規制するのだ。これは夕子が農協主催の講演会に参加して知った。

それに比べて人間は欲望に勝てない。人には滅亡という言葉がないかのように振る舞い、まだまだ宇宙船「地球号」は宇宙を心地よく飛んでいるとおもっている。

 

次回更新は3月31日(月)、22時の予定です。

 

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