「お仕事ですか」
「いえ、旅行です」
初対面でしかも相手は若い女性、あれこれ聞くのは失礼と思い、
「よろしくお願いします。あなたはお若いですね」とだけ言ってみた。すると、「私は若いという気はしないのですが、23歳になります」と年齢まで教えてくれた。顕治は、挨拶に応えてくれたことだけでワクワクした。
「私は気ままな旅をするのが好きで、行き当たりばったりの旅をしています」
「そうですかぁ! 僕もそんな旅を続けているのですよ。でも若いときからそんな旅ができるとは羨ましいですね」
「そうですか、そのような旅をする方、珍しいですよね。共通した旅のスタイルだからうれしいわ」
「今回はどちらに行かれるのですか」
「スウェーデンにまず行きます」
「僕も今回はスウェーデン・ストックホルムからスタートして、ヨーロッパ縦断するんですよ」
同じ飛行機でも、乗り継ぎでそれぞれの目的地が違う場合もあるので、目的地が同じということで、顕治はわずかながらご一緒できる可能性はゼロでないと希望が繋がったように思えた。
同じ旅行者としての話題の尽きない会話を交わしながら、機内での時間が過ぎていった。
50歳も違う若者と会話できるだけで貴重だと、顕治は得した気分になっていた。
彼女は独特な雰囲気を持っている。何か言葉では表現できない空気を漂わせている。
受け答えの際、目上の人への丁寧な言葉遣いやその態度が実に快い。高齢者にこのように接してくれる若者もいるのだと顕治は感心していた。
深夜便の夜が明けた。一斉に機内の小窓が開き照明も点灯した。
ドバイ国際空港への着陸を予告する機内放送が流れた。
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