「すみません、夜分遅くに。また緊急事態です。今度は石川嵐士が死亡しました。原因は不明ですが、抗生剤の点滴後に急変しているのでアナフィラキシーショックの可能性があります。いえ、一週間前からセファゾリンで変えていません。特に発疹も出ていません。ええ、それがまたあの石破という看護師が点滴をした後なんです。
え、警察ですか? 今回も特に外表異状はありませんが。ああ、確かに高橋の父親がうるさいですからね。どうせ向こうが連絡するのなら、こちらから早めに手を打っておいた方がいいですね。分かりました。そうします。またご連絡します」
蒼が電話を切ると海智が立ち上がった。
「警察を呼ぶのか」
「お前に関係ないだろ」
「関係ある。俺は見た」
蒼は振り返り、蔑むような目で海智を見た。
「見た? 何を」
「梨杏だ。嵐士が急変する前に梨杏が四〇一号室から出てくるのを見た」
蒼は目を丸くしたが、すぐに失笑した。
「お前もあの看護師みたいに何かにとり憑かれたのか。俺は信永梨杏の主治医だ。彼女は八年間も植物状態だ。採血針を刺してもピクリともしない。動けるわけないだろ。それとも、生霊にでも呪い殺されたっていうつもりか?」
「そうじゃない。だが、梨杏が入院している病棟で、彼女を虐めていた奴が二人も死んだ。きっと裏に何かある。警察が来るなら俺も証言する」
「は? ああ、そう言えばお前、昔、ミステリー作家になりたいとかなんとか言ってたよな。まさか、探偵気取りでいるつもりじゃないだろうな。そんなんだから未だに就職もできないんだよ。こっちは忙しいんだ。探偵ごっこの相手をしている暇はない」