「ねえ、イザベラ、私はフランチェスコ様だと思うの。そして、貴女のことはちゃんと分かっていらしたみたいよ。これは私の勘なのだけれど、もしもフランチェスコ様なら、きっと近いうちにまたいらっしゃるでしょう。――あの図書館の同じお部屋に」
イザベラは驚いて母の顔を見た。母は遠くを見る様な目をしていた。
一夜明けると、もうそのことは気にならなかった。
今のイザベラには、もっと魂を奪われることが他にあった。
イザベラは、また毎日の様に「ラテンの部屋」へ行ってヴィルギリウスを夢中で読んだ。イザベラには、ヴィルギリウスの息づかいが感じられる様になり、1500年も昔の詩人の声が聞こえる様な気がした。
図書館の大理石の階段を駈け上がるイザベラの足取りは、日に日に速く軽やかになっていった。
早く読みたいという思いに胸を弾ませ、15歳のイザベラは広い階段を一気に駈け上がっていった。そして、大きな扉を力いっぱい開け、「ラテンの部屋」に飛び込むと、いつもの栗の木の書棚からヴィルギリウスを取り出した。
その時、イザベラは、はっとした。
「あっ、あの方だわ」
部屋の隅の小机の所でエンリーコと話しているのは、紛れもなく1週間ほど前のあの若者だった。
イザベラは、母の慧眼に驚嘆し、呆気にとられて若者を見た。
若者は、その瞬間、目だけでイザベラを見た。
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