里芋を肴に焼酎をロックでちびちびとやって、ご機嫌に酔っぱらっていた祖父が急に真顔になった。
「日本の昔話とか民話だと雪の妖怪みたいなもんで、真っ白いでかい顔で雪の夜ぬっと現れて人を脅かすだけらしいね。僕たちがなんとなく持っているイメージでは、妖怪は妖怪でも美しい黒髪の女の人って感じなんだよな。それって小泉八雲が創り出したイメージらしい。ペターセン教授が八雲が大好きでさ、彼の描いた雪女像を考察しろって課題なんだ」
「八雲か。君たち世代はまず読まんだろうが……聖也は『雪女』を読んだことがあるのかい?」
「八雲の怪談はまだちゃんと読んでない。祖父ちゃん、知ってる? 話してよ」
「炬燵で昔話をさせる気か? ずいぶんと爺さん扱いだな」
「いいじゃないか。だってクリスマス・キャロルって柄じゃないだろ?」
「こいつはおみそれしました! でも、私はどちらかと言えばディケンズのほうが好みだがね」
「炬燵に焼酎ときたら昔話がしっくりくるよ、やっぱり」
「まあそうだな。じゃあ電気を消せ。クリスマスらしくキャンドルといこうじゃないか」
「エーッ、百夜語(ひゃくやかた)りじゃあるまいし。いくら怪談だからって」
「道具立てって奴が肝心だからな」
祖父はグイっとグラスをあおると興が乗ったように話し出した。もともと講談とか落語が大好きな質だ。僕が渋々点けた一本だけのキャンドルの炎が揺れ、突き出したチキンの脚が皿に影を作った。