【前回の記事を読む】いよいよ三十五年ぶりの学生生活の始まり!所属したクラスは十五名で、私以外の日本人は自分の娘より若い二十一歳の女性だけ

第二章 シルバー留学

予想外のBIPAの授業

BIPAの授業は朝九時から始まるので、八時半ごろアパートを出て、法学部のキャンパスを横切る。きれいに手入れされた花壇に咲いた色とりどりの花が、授業に向かう憂鬱な気持ちを慰めてくれる。

インドネシア大学のBIPAのカリキュラムは素晴らしい。初級コースでは、友達や家族といった人間関係、場所・方向・交通と道案内、冠婚葬祭、病気・健康、食べ物、旅行、ビジネスなど一通りインドネシアの日常生活で必要となるテーマについて、会話、リスニング、作文、リーディングの側面からほぼ同時期に学習する。同じようなシチュエーションを多方面から集中して学ぶので、語彙やフレーズを覚えやすい。

また、国ごとのチームに分かれて名産品を作り、インドネシア大学の学生や教職員との価格交渉に応じながら販売し、チームごとの粗利益額を競うパサールBIPAという催しや、伝統芸能鑑賞や汚職撲滅委員会見学といった遠足、寸劇の発表などもあり、楽しくインドネシア語を学習できる工夫がされている。

しかし、授業はかなりのハイペース、しかも全てインドネシア語で行われるので、先生の話していることが時々わからなくなる。単語帳を作ったところ、重複もあるが、最初の二週間で六百語を超えた。

そのうえ、宿題や小テストが頻繁にある。これまで日本では経験したことのない詰め込み教育である。入学前、「南国でのんびり学生生活を」と思っていたのは、とんでもない誤算であった。

アパートに戻って一人になると、ついネットサーフィンをして、なかなか集中して勉強する気にならないので、課外活動のない日は、食後、大学内のカフェで少し休憩してから、夕方まで図書館で勉強していた。

ある日、同じクラスの韓国人の女性から「いつも一人で勉強しているの? それでは、語学は上達しないよ」と言われ、インドネシア大学の韓国語学科の学生を紹介してくれた。