「全く分からない」
「はあ、分からないことだらけね。本当にどうしてこんなことになったのかしら」
一夏はぐったりと背中を椅子の背もたれに預けてうつむいた。海智も万策尽きてこれ以上どうしようもなく黙っていたが、ふと思い出した。
「一夏、梨杏は何故あんな高い部屋にずっと入院できるんだ?」
彼女は疲れたように顔を上げた。
「知らないわ。でも前に先輩のナースから聞いたことがあるの。梨杏が入院した時に実は医療事故があって、それを訴訟にしない代わりに特室をただで使わせてもらえてるんだって。本当かどうかは分からないわ。その先輩ももういないし」
「医療事故・・・・・・あ、あと、七月十八日午後九時過ぎ頃だけど、金清さんがナースステーションに来なかったか?」
「いいえ、来ていないわ」
「えっ、睡眠薬を貰いに行ったって言ってたんだけど」
「少なくとも私は見ていないわ。また見野さんにも聞いておくわ。今日は疲れたからもう帰るね」
そう言うと一夏は病室を出て行った。
それからしばらくは何事も無い日が続き、七月二十五日月曜日になった。海智は造影CTや胃カメラまで済ませていた。
山下医師からは大腸カメラまで勧められたが、さすがにそれは断って、便潜血検査で済ませた。これで予定していた検査は殆ど澄んだわけだから、もう帰してもらってもよさそうなものだが、あまり早く帰るとこれもDPC上都合が悪いらしい。
予定通りあと一週間、ただ安静にするだけの入院生活が続くことになった。ただ、以前の彼のように主治医に食ってかからなかったのは、殆ど毎日のように一夏が彼の所にやってくることが影響しているのだろう。