【前回の記事を読む】「糞したんだ。換えてくれ」と股間を指差しながら言われて絶望。何故私がこんな奴のオムツ交換をしないといけないの?
眠れる森の復讐鬼
「だって、急に探偵みたいな口調で言うんだもの。『君達』だなんて」
「お前が、この事件を解決しろって言ったんだろ。探偵みたいな口調にならないと、こっちも探偵のように頭が回らないんだよ!」
海智が顔を真っ赤にして反論すると、一夏は右手でお腹を押さえて、左手で口を覆って、今にも吹き出しそうになるのを体を捩らせて何とか堪えながら弁解した。
「ごめんなさい、ごめんなさい。それで何だっけ?」
「非常階段の鍵!」
「ああ、非常階段の鍵ね。そうよ、ナースステーションの奥の処置室の戸棚の中に保管しているわ」
「看護師以外でそこに鍵があるのを知っているのは?」
「え? 分からないわ。避難訓練があるから院長や事務長は知っていると思うけど、それ以外の人がどこまで知っているか分からないわ」
「経子さんが知っている可能性は?」
「少なくとも私がここに来てからはないと思う。どちらにしろ、医療従事者以外の人が処置室に入るのは難しいと思うわ。ナースステーションは夜でも看護師が必ずいるもの。経子さんを疑っているの?」
「可能性を考えているだけさ。非常階段の鍵が手に入れば合鍵を作れる。そうすればナースステーションに看護師がいなくなった隙を見計らって四〇三号室に侵入することもできるわけだ」
「でもそんなことできるかしら。ナースステーションを空ける時は大抵ナースコールで患者さんに呼ばれた時だから、廊下で鉢合わせする可能性が高いはずよ。そんな危険なことするかしら?」
「確かに」
「私が見た梨杏のことはどうなるの?」
「昨日二人で確認したように、昏睡状態の彼女が殺人を犯したとは考えにくい。幻覚でなければ、誰かが彼女に扮装したということになる。経子さんが怪しいと思ったけど、監視カメラでは彼女は午後九時に帰宅している。非常階段を使ったのなら別だけど」
「黒いバッグの意味は?」