富農氏も戸惑っているようだ。しかし虫は虫だ。そこで殺虫剤を掛けてみたが、どれも有効ではない。

「一匹一匹捕まえるしかないようですね」

「どういう生態なのか、調べてくれるかい? 一網打尽にできるかも知れない」

そこでスズキ青年はもう一晩、畑で夜明かしすることになった。

そして夜更け。昨日とは一変して、虫の一群が畑を覆い、作物は荒らされ荒涼とした風景に一変していた。スズキ青年は灯油ランプを掲げると、焦慮の念がホヤを燻し、緊急事態を告げているかのようであった。

いまや大豆虫はすべての作物を食い尽くし、より巨大化して畑の一角に集まっていた。ごそごそと音を立てるのは、徘徊や咀嚼の音ではなかった。言葉を交わしているではないか!

「お前たちは何者だ!」

スズキ青年は叫んだ。

するとその中の徳相で知性のありそうな一匹が、「地上の方よ……私たちは銀河の中心付近で発生した、知的生物です。故郷の資源が枯渇したため、はるばる新たな世界を求めやって来ました。宇宙船内部の生態系に適応したため、このような姿形となっていますが、どうかこの地上の半分をお譲りください」とすり鉢で穀物を砕くような声色で言った。

 

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