日は遠く箱船の彼方に沈み、夕闇は目の前を陰らしてやがてすべては等しく闇の中へ落とし込まれた。スズキ青年は草地に横たわり、星星の輝きに伝承を思い出そうと努めた。病み上がりの体を大地が抱え、目を閉ざして葉擦れに耳を澄ました。農村に対する幻想が際立ち、箱船には帰らずにここで自足した生活を送ろう、と妄想にふけった。
するとなにかの気配が周囲を包み、おぼろな幻想が霊感を育み、人外の訪れを当然のものとして受け入れた。何者かが周囲を取り囲み、風が葉擦れを生むのではなく、物をひっかくような、擦りつけるような音がはっきりと聞こえた。
スズキ青年は目を覚まし、周囲の安全を確認すると立ち上がって砂を払い、その音源をただした。辺りは夕闇に沈もうとしている。すると目の前の苗に、ぼんやりと何者かが取り憑いているのがわかった。
スズキ青年は近づいて確認をした。虫のような生物が苗の若芽に取りすがって喰らっているのだ。勇気を出してつまみ上げてみると、柔軟だがしっかりとした指触りの、芋虫のような生き物であった。
正体見たり!
しかしどう駆除をすればいいんだろう? 数匹をハンカチで包み、縛ってあてがわれた納屋に引っ込んだ。
暗闇の中で古びた灯油ランプを点け、その虫を確認した。こんもりとしていて、まるで大きな大豆のようだ。あつらえたように蓋のある瓶があり、蓋に釘で穴をあけて虫を放り込んだ。日が明けたら富農氏に報告しよう。そうして休息をした。
翌朝、富農氏を訪ね例の大豆のような虫を確認してもらった。
「なんだろうね? まったく初めてみるが……」