次の日、ヤマト君もたっちゃんも昨日は何もなかったように、普段通りだった。僕はどうしても知りたくなって、体重測定の時にたっちゃんに聞くと、

「朝方、死んだみたいやわ。順也、絶対に言ったらアカンで」

と僕の耳元で小さな声で教えてくれた。僕は怖くなり、女の子の病室をじーっと見ていた。ここは痛い治療や検査があるけど、毎日みんなと冗談を言い合う楽しい場所だと思っていた。でも、命が消えゆく場所でもあるんだ、そんな場所に僕は今いるんだと改めて気づかされた。すると、僕はペシッと頭をはたかれ、

「だから、師長さんを呼ぶで。このスケベやろう」と、たっちゃんが笑みを見せて言った。たっちゃんは、何度も何度も僕の頭を撫でていた。それ以降、アニメキャラのワンポイントが入ったあのニット帽を被った女の子を見かけることはなかった。

やさしさの詰まった手術と兄のやさしさ

腎生検とは、腰の上にある腎臓に特殊な針を刺して、腎臓の細胞を採取し精密に調べる検査のことだ。CTやMRIなどさまざまな検査を行った結果、兄は通常の腎生検ができることがわかった。

しかし、僕は腎臓の萎縮が強くて(腎臓が硬くなっている状態)、通常の腎生検ではなく、手術で行うことが決定した。手術は小児科の先生ではなく、泌尿器科の先生がするということであった。

手術前にその先生と、僕一人でお話をすることになった。泌尿器科の外来で先生の説明を受けるということであったため、病棟の看護師さんに送ってもらい、待合室で待っていた。待合室にはお年寄りの方が多く座っていた。診察室は4つあり、ドアには小児科のように動物の絵はなく、数字だけが書かれていた。

“今日はアキ君にTVゲームの残機100アップの方法を教えてもらう約束やから、早く終わらないかなあ”と思っていると、

「田中君、田中順也君ですか」

と、診察室から出てきた看護師さんに名前の確認をされた。