【前回の記事を読む】消灯時間を過ぎても騒がしい小児科の廊下。耳に入る「状態」「悪い」ということばが僕を怖がらせ、友達は何かを察しているが......

病院という場所を知る

僕は窓から外を見るのが好きだったので、もっと遠くを見たいと母に言うと、自宅にあったオペラグラスを持ってきてくれたので持っていた。暗い中だったので、手探りで引き出しの中からオペラグラスを手にして、たっちゃんに渡した。その騒々しさの中で、隣の病室にいたヒロシが、

「なんか、あったんかな」

と言いながら入ってきた。たっちゃんはそのオペラグラスをヤマト君と交互に貸し合いをしながら、

「やっぱりクリーンルームや。誰かしんどくなっているんやな」と二人で話していた。

それを聞いていたヒロシが、

「誰か死ぬのかな、誰が死ぬんやろ」

と目を丸くして聞いてきた。するとヤマト君が「そんな言い方はアカンで。死ぬとか興味本位で言ったらアカンよ、わかったか」とヒロシに、学校の先生よりもやさしく注意した。

僕も口には出さなかったが、ヒロシと同じことを考えていたから、僕にも言われている気がして、死ぬことは興味本位で話してはいけないんだと知った。僕たちは息を呑みながら、電気がついている部屋の方を見ていた。すると、いきなり病室の扉が開いて、

「何時やと思っているの。早く寝なさい」と看護師さんが懐中電気の灯りを僕たちに向けて強めな口調で言った。すると、たっちゃんが、

「何かあったんやろ? なあ」

と看護師さんに質問した。僕も知りたかったので看護師さんの方を見ると、

「何もないから、あんたたちには関係ないし。早く寝なさい。もう、まったく」

と、呆れた口調で僕たちに言った。ヒロシも部屋に戻され、みんなベッドに戻った。