健斗はというと、学校での自分は晃の影のような気がしていた。友達の多くは自分に対して「晃の親友」というフィルターを通して見ているような気がする。一度晃と喧嘩をしたことがある。それは些細なことだった。
休み時間に晃が、前の授業で先生の説明したことがわからなかったと言ってきた。何がわからなかったのか聞いてみたら、それがまた「何がわからないのか、わからない」といった内容で、それで思わず「なんでわかんないんだよ」と健斗は呆れた口調で言ってしまった。
ただそれだけのことだった。でもそれが晃には癇に障ったらしく、しばらく口をきいてくれなくなってしまった。
――え、何、俺が悪いの?
その時は親切に聞いてあげたのに、晃の方が失礼じゃんって思った。
でも、その時、教室の中では晃あっての自分なのだと思い知らされた。ほとんどの友達は「健斗が悪い」となって、急に友達が離れていくのを感じた。そして、晃の機嫌がほどなく直ると、友達も何事もなかったかのように戻ってくる感じだった。
もちろん、あの時、悟は困っていたに違いない。自分にかける言葉といえば、晃に謝った方がいいとか、仲直りしろよとか。どっちが悪いかは関係ない。とにかく早く健斗が折れて、関係を修復させてほしいという一心だったのだと思う。
百歩譲って、健斗が孤立しないよう気にかけてくれていたのだとしても、早く健斗から謝ってくれたらいいのにと思っていたのは事実だ。
悟にとって、晃と喧嘩している最中の健斗と仲良くするのは、傍からどう見られるか気が気じゃない様子だった。悟は晃に付いている。だから、健斗と二人で話しているのはマズイというオーラが出まくっていた。
健斗は悟には中立であってほしかっただけに、そのオーラに傷ついたのだが、そのことに当の悟は気づいていない。
悟は悪い奴じゃない。ただ自分に正直なだけなんだ。友達だから気にもかけてくれるし取り持ってもくれる。でも、健斗にとって肝心なのは決して自分の味方ではないというところ。あくまでも晃がいてこそなんだ。
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