「おまえは、彼らをよく使って、徐福の手がかりを見つけることだ。そして二月以内にこの都に戻ること」
大興城を出てから、くどいほど繰り返されている言葉だった。法広は、最後にもう一度、深く礼をすると、出発の準備をしている宮庭の隊列に戻っていった。
二
隊列の先頭は案内役の兵。蝦夷近くまで往復した経験のある、大犬(おおいぬ)という男。次に蘇我英子。そして隋の僧法広。老剣と弟子の蝶英。兵が十。輜重車を引く馬も含めて、全員、騎馬で進んでいる。
都を出てから七日。いくつかの国造(くにのみやっこ)の地や県を通る。東国の地に入るが、蝦夷の地はまだ先だ。
開けた川の側の平地に出ると、日没前に野営の支度を始めた。馬に水を飲ませて、草場に繋ぐ。兵が薪を集めて火を熾(おこ)す。七日も経つと、それぞれの役割も手慣れたものだ。
僧の法広は隊から離れたところで、いつも通り静かに経を唱えている。老剣と蝶英は日々の鍛練に余念がない。そんな彼らを見ながら、蘇我英子は敷物の上に、ごろりと寝そべって酒を飲んでいる。
いつもの光景だった。遙か遠くから、野営の火を眺めている。彼らが、毎夜火を熾すので、追うことに苦労はしない。近づく危険はおかさない。何しろ、ひどく勘の鋭い男が一人、中にいる。
近づいて気付かれると、面倒なことになる。男は自分の気配を消している。遠くの火を確認すると、元の道を戻る。充分に距離があると、確信してから息をついた。ここにも十人ほどの兵がいる。
警戒して、火は熾さない。干(ほ)し飯(いい)を噛むだけの食事だが、これも試練のうちだろう。
「円士(えんし)、どうだ」
戻った男は、声をかけられた。
「連(むらじ)様、予定通りだ」
そう答えると、連と呼ばれた男は頷いた。
「老剣はどうか」
「こちらには気付いていない。ただ、油断は禁物だ」
円士という男がそう言うと、連も頷く。
「まあ、老剣は、弟子だったおまえに任せておく。あとは英子と、それにあの得体の知れない坊主」
あの坊主が全ての始まりだった。紀井の奥地に逃れていた物部(もののべ)の生き残りに、都に潜ませている窺見(うかみ)の者から届いた話。秦の不老不死の術が、この国の何処かに伝えられている。隋使が、厩戸皇子にその探索を依頼した。
不老不死の術を使えば、滅びかけている物部の家の再興も夢ではない。蘇我に代わって大王家を差配する。仏教を廃して、古の神祇(じんぎ)の信仰に立ち戻ることができる。
連と呼ばれた物部仁人(もののべのにひと)は、そう考えていた。
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