鼻は……それほど高いとはいえないが、その顔立ちには合っている。口元はすこし潤いがあるような薄いピンク。まさに自分が描いていた〝都会のセレブ〟そのもの。目が合っただけのはず。一応、まともに彼女を見ただけ。
『どうして、これほどまでに細かいことまで見えるんだ?』そう思うと、自分でも不思議な感覚だった。
背は、遠目よりも小柄だったが、いつもクラスの女子が騒いでいるファッション雑誌から飛び出てきたような風貌だった。都会で流行っているファッション雑誌に夢中な女子の間で人気が出るのも当然かもしれない。
男子はというと……ただ見ているだけの軍団。自分は席が隣だったので運よく話し掛けられもしたが、それも小野に強引に言われてのこと。それでも、二、三言、言葉を交わしただけ。そうでない男子は、それは近づくこともできないだろう。
ある意味、ラッキーな自分。そして、その自分を少し離れたところから、またもや含み笑いで見ている親友の小野がいた。彼女は、自分の周りで起こっている騒動を知ってか知らずか、普通の表情で三時間目の授業の準備をしているようだった。
自分からは少しうつむき加減の横顔しか見えないが、その〝普通〟 がそれがまた、何とも言えないほどの美しさ。言葉を換えて言うなら〝清楚〟。
僕の目には、彼女の向こうに見える、ピンクのコスモスの丘が背景となった〝絵〟に映った。
いつもは、風景画。
その日は人物画。
そのくらいの違いがあった。
その日は、初めてのキスやH体験……学園祭や体育祭などなど、〝これぞ、高校時代の最高の思い出!〟そう思った数々の出来事の中でも、一番の衝撃的な日になったという思いは今も変わらない。