第一章 コスモスの頃

一.転校生

何をそんなに自分にリキを入れる必要があるのかと、自分でも不自然な感覚。それでも、〝気合い〟を入れた。

「もう、女子と仲良くなったの?」

昼休み中、女子の中で楽しそうに笑っていた彼女が印象的だったので、何も考えていなかったわりにはまともな質問ができた。

「え?」

僕の急な問い掛けに、彼女は一瞬、驚いたような表情を見せた。が、すぐにその表情は笑顔に変わった。

「そうなの。何だか、皆、優しくて……転校なんて初めてだから、ちょっと戸惑っていたんだけど」

そう言うと、本当に嬉しそうに笑っていた。

「よかったね」

 「うん」

それだけで、その時の彼女との会話は終わってしまったけれど、僕にはかなりの衝撃的時間だった。というのも、こんなに間近に彼女の顔を見たのは、朝から初めてだったから。午前中、ずっと隣に座っていたはずなのに……やはり、かなり情けない。

間近で見た彼女は、その朝、ホームルームで初めて彼女を見た時とはかなり印象が違っていた。実は、教室の机の間の狭い通路を歩いてきた時も、「ここでいいですか?」と声を掛けられた時もまともに彼女を見てはいなかった……というよりも、見ることができない自分がいたから。

遠目で彼女を見た印象は、髪の毛が柔らかそうな色白の美人。この辺りでは、滅多に出会うことがないような、あかぬけた都会的な印象。そのくらいの感覚だった。

しかし、間近で視線を交わしながら見た彼女は、例えて言うなら、何かの雑誌で騒がれている〝セレブ〟的印象。上品な笑い方と話し方とその声。

色白というのは、遠目で見た以上に、青みがかったに近い日本人離れした色白。髪の毛は生まれつきの栗色といった感じ。特に茶色いわけでもなく黒くもない。目は、二重がはっきりしていて、かなり大きいし、まつ毛も長い。