第一話 古代の史書と読み解き方

この二点を史実と見なし、これを起点として天皇に関して記載された情報が、どの時期、どの場所、どの人(氏族)の記述か疑うべきである。また考古学的な知見を状況証拠として、大きな歴史の流れの中で、未整理状態のデータバンクとしての『記紀』を読み解く姿勢が大切である。

最後に『日本書紀』における天皇の在位期間の連続性について考えたい。

『記紀』は中国史書と比較して人数や距離などに具体的な数値を示すことが少ないことは前述した。ところが天皇在位の連続性と整合性に驚かされる。

さらに在位年数の正確性は『日本書紀』の数値の扱いの中で異常とさえ感じられる。この数値データを一覧表にした(表1)。

この数値についての違和感を突き詰めると、文字という情報媒体を持たない時代に、「神武天皇」に始まり歴代の天皇の即位年を順次繋げて系図を作ったことが有り得ないことに思える。

むしろ逆に、年齢や活躍期間などの数値情報を持つ天皇や英雄を、時間を遡って登場させ、開祖(「神武天皇」)まで辿り着くように、『記紀』編纂時に再構成したと想像してしまう。このような着想について後の話題で取り上げるつもりだ。

なお『記紀』には登場人物(特に天皇家の血族)が多く、混乱しやすい。皇位継承の争いや女性関係による内乱などで、登場人物の把握に苦労する。

そのため『古事記』の記述から、天皇と妻(后や妃)、子供を網羅した「天皇家族系図」を作成し、巻末にその全容の資料を示した。これを片手に『記紀』を読むことにより、理解が深まり新たな展望が開くこともあった。『記紀』や本随筆を読むときに利用されたい。