ここで想定されている新型インフルエンザとは、H5N1から生まれる強毒型のウイルスから発生する。厚生労働省はこの新型インフルエンザ対策を積極的に国民に示してこなかった。米国や先進諸国では、その対策が危機管理として位置付づけられていた。
厚生労働省は弱毒性ウイルスによるインフルエンザは想定していたが、強毒性ウイルスの危機に対する国民への啓蒙や情報提供は遅れていた。
国立伝染疾患研究所にインフルエンザウイルス・センターが設置され太田がセンター長に就任した。また、太田はWHOの専門家会議の座長として、各国の新型インフルエンザウイルス対策の現状の把握や情報交換に精力的に取り組んでいた。
一方、永谷綾は、国会議員・川北次郎の助言を受け経済界に活躍の場を持つことになった。数々の提案を掲げ、自治体、学校、企業など講演活動を広げていった。
著者が、経団連常任委員会で実際に行った講演の原稿が本書の359頁から374頁にかけて掲載されている(一読の価値がある見事な講演である)。
【感想】
感染疫学やウイルス学の研究者である著者の優れた知見を通して書かれた本書は、小説という形をとっていることもあって読み易い。ウイルス感染症の概要がよく理解できる。
ストーリーの構成や登場人物の描写、小説としてのエンターテイメント性など面白さに欠けるところもあるが、扱うテーマからして無理もないところか。
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