【前回の記事を読む】感染小説『ナニワ・モンスター』――インフルエンザ・パンデミックを「東京対関西」の政争の具に使った斬新な発想が恐ろしい

Ⅲ 「感染小説」、その概要とあらすじ、私的感想

『コロナ黙示録』/海堂尊/宝島社(2020年7月発行)

【作品概要】

本書は、2020年7月24日に発行されている。現在進行中のコロナ禍を題材にしたはしりの作品と言えるかもしれない。本書が発行されて以来、コロナを扱う作品がミステリー小説を中心に次々に発行されている。

【あらすじ】

2020年2月1日、新型コロナウイルスの感染症者が、中国で7700人、韓国で4人、日本で10名発生した。その時点から、クルーズ船の乗船者への対応、オリンピックの開催、北海道のクラスター、無為無策の政府などの問題をめぐるストーリーが時系列に進んでいく。

【感想】

内容が現在の新型コロナウイルス感染に苦しむ日本の実態に酷似している。小説ではなくドキュメンタリーではないかと錯覚をおぼえるような作品である。

『エピデミック』/川端裕人/集英社文庫(2020年7月発行)

【作品概要】

東京に近い町で発生した致死率の高い感染症に立ち向かう人たちの緊迫の10日間を描く。

〈エピデミック……一地方においてある疾病の罹患者が大量に発生すること〉

【あらすじ】

物語は関東南部の半島にあるT市の浜崎という集落で、感染すると重症化するインフルエンザ患者が多数発生する。主人公の疫学の専門家・島袋ケイトが現地入りし、総合病院の高柳医師や保健所の小堺所員たちと共に調査を開始する。

ケイトたちは、複数の可能性を追いながら感染源を突き止めていく疫学の手法を駆使して調査を続けた。浜崎地区では猫が多数住み着いているが、その猫が感染源であることが判明する。

【感想】

ケイトたちのチームが、10日ほどで謎の多いインフルエンザウイルスの感染源を突き止めたのは、あまりなじみのない疫学に基づく調査を行った結果であった。本書は、小説という形をとり様々な事象を通じて疫学的手法とはどのようなものであるかを教えてくれる貴重な一冊である。