【前回の記事を読む】【『首都感染』あらすじ・感想】首都圏封鎖。封鎖エリア内の病院では感染者が殺到し、医療崩壊。「強く心を打たれた。だが…」
Ⅲ 「感染小説」、その概要とあらすじ、私的感想
『ナニワ・モンスター』/海堂尊/新潮文庫(2014年4月発行)
【作品概要】
関西の最大都市・浪速で新型インフルエンザウイルスによる感染が発生する。次第に感染が蔓延しパンデミックに状態になる。関西を中心に学校の休校、企業の休業、各種のイベントの中止措置が次々と採られていく。
司法、行政、医療などの問題に繋がる「東京対関西」という対立軸が浮かび上がってくる本書は、「第一部 キャメル」「第二部 カマイタチ」「第三部 ドラゴン」の三部で構成されている。
【あらすじ】
第一部 キャメル
開業医・菊間徳衛が所属する浪速市医師会では、新型インフルエンザ・キャメルをテーマに講演会を開催した。講師に招いた浪速大学の木田苗子講師は、「キャメルは新型ウイルスであるから国民は免疫を持っていないので、国内に入ってきたら爆発的に拡大する」とキャメルの脅威を強調した。メディアもキャメルを大々的に取り扱った。
菊間医師は、キャメルの致死率が0・002%と低いことから木田講師の公演に違和感をもった。時はゴールデンウイークなのに団体旅行や修学旅行などのキャンセルが続き、浪速市の観光産業は大きな打撃を受けた。消費活動は低迷し浪速市の経済は破綻した。ところがよりによって、菊間医師の足元で初のキャメル感染者が発生する。
第二部 カマイタチ
東京地検特捜部に昇格されると巷で目されていた鎌形雅史検事が、浪速地検特捜部の副部長に任命されたという異例の人事が行われた。鎌形は厚生労働省の補助金不正疑惑で強制捜査に入った。半年後に、東京地検を中心とする中央官僚たちからの手痛い反撃にあうことになる。インフルエンザ・キャメル騒動による浪速市の経済崩壊は東京地検の陰謀であったことが判明する。
(人の命にかかわるインフルエンザ・パンデミックを「東京対関西」との間の政争の具に使うという発想は、小説としては面白いが現実の問題となると恐ろしくなってくる)。
第三部 ドラゴン
本書でよく顔を出す彦根新吾医師が、「第三部 ドラゴン」では中心的な役割を演じている。彦根は浪速府の知事・村雨弘毅を九州の舎人町に案内する。真中裕子舎人町長の説明では、この町では人間ドックに近い特別個人検診を住民全員に実施するというシステムが導入されており解剖率が100%にも達している。先進的な地方医療を展開している。
彦根医師、村雨知事、真中裕子舎人町長の3人は東北の万台市を訪れ、道州制を唱えている青葉県の知事・新村隆生と北海道極北市の益村市長に面会する。実は、彦根医師の意図していた会合のメンバーが揃ったのである。この会合では、道州制、日本を3つの独立国に割る日本3分の計などの日本大改革案が熱心に語られた。彦根医師が構想する「医療共和国」も話題になった。
【感想】
本書では日本の医療界が抱える様々な問題がそれを取り巻く政治、司法などの関連の中で取り上げられている。今後、現実の世界でどのように展開していくのか。興味は尽きない。