第一章 東京 赤い車の女

4

今日は午後一時過ぎに解散。サキコさんとイチヘイをいつも通りに見送ってから、ユミは九段下にあるホテルグリーンパレスに僕を連れてきた。駐車場に車を止めて入り口まで二人で歩く。

「ヒロくんて、背、高いんだね」と言いながらユミは僕の腕に軽く腕を通して、

「まるでカップルみたいだね」と言った。

僕もそう思う、普通に見れば誰もがそう思うだろう。

大きなガラス扉のエントランスからロビーを左に抜けて、カトレアというレストラン・カフェに入る。二時に親友と待ち合わせだという。

席について五分ほど待つと、鮮やかなブルーのワンピースを着た、ユミみたいに細くはないけれどシュッとした雰囲気の女性が近づいてきて、ユミの前の席に座った。ユミが僕の方を向いて、「サユリよ」と言うと、

「ちょっと遅れちゃってすいません。サユリといいます。小さい百合、普通の名前です」

ユミから紹介された女性は微笑みながら軽く頭を下げた。少し伸ばした黒髪が頬の横で微かにカールしている。ユミが最初の自己紹介の時に言っていた『医者の卵で親友』、東京の病院で研修するために金沢から出てきた人だった。

「勉強と言ってもまだ学生だから、いろいろな現場を見学させてもらっているだけですけど」

と言ってまた微笑んだ。ちょっとふっくらした感じのする優しい笑顔だ。