「鳥谷が犯人の目星をつけている頃だ。あとは証拠と動機。人間関係についてはこれまでも洗ってきた。婚約者の横川淳一、恩師の栗林智久。トラブルもなく慎ましく生きていた、幸せの絶頂だった女がなぜ消えたのか」
木嶋は捜査員を呼びつけて指示を出した。
「どこかの調書で失踪前の久原真波は体調不良を訴えていたと証言があったはずだ。その通院記録を調べてくれ。あとは産婦人科にも話を聞くように伝えろ」
「はい、確かに婚約者の横川淳一からそのような趣旨の話はありましたが、どうされたのですか」
「おそらく久原真波は他人、婚約者や家族にさえ言えない秘密を抱えていた。もしかしたら横川からプロポーズされたとき、すでに久原真波は流産していたのかもしれない」
「しかしそのような情報は何も」
「言わなかったのだ。いや言えなかったのかもしれん。だからこそ素直に喜べなかった。だとすればそんな心理状態の女がどこへいくのか。友達も少なく相談する人は限られる。栗林とも卒業以来連絡をとっていない」
そう独り言のように言った時、鳥谷から送られてきた絵に目を落とした。
「これは藤山か。この赤いコートを着た女の子、おい、事件発見時の調書を見せろ」そういって捜査員からファイルを取り上げてテーブルに叩きつけた。十二月三十日の午前九時、鳥谷の個人携帯に通報があった。現場に急行すると赤いコートを着た少女が立っていた。