二
暢気な苦笑が聞こえる。
「最初からそんなにつけたら、ほら、もうほとんど残ってないじゃない」国生の皿のタルタルソースは、あと三割ほどしか残っていない。
「もう、誰に似たんだか……」母は自分のタルタルソースを、半分ほど国生の皿に移した。
「ほら、何か言うことがあるんじゃない?」
「お母さん、ありがとう!」
満面の笑みで答えると、米粒が口から勢いよく飛び出した。
「いい返事だけど、お行儀悪い。食べてるときは喋らない」
「うん、わかった!」
また米粒が宙を舞った。たちまち母の目が吊り上がる。
「『うん』はダメ! 喋るのはあと! それとよく見たらあんた、また箸の持ち方が変じゃない?」
未だに箸の持ち方が治らないのは、これまで母が厳しく言わなかったからだ。夕食時は欠かさず晩酌をしていたし、そのときの母はぼんやりとしていて機嫌がいい。そんな状態で放たれる小言は、どこか気の抜けたサイダーのようで、ぴりっとしたところがなく変に甘ったるい。
しかし、それもひと月ほど前までの話だ。ここのところ母は一切晩酌をしない。そればかりか、ことあるごとに小言を言うようになった。内心鬱陶しく思いながらも、アパートの狭い部屋に母子二人。逃げ場はないので、逐一素直に頷くしかない。
その日も母は、食事をしながら何度もしつこく問いかけてきた。学校での出来事、授業の内容、クラスメイトや教師との会話……。これらも小言と同様、ひと月前から始まった日課だ。しかもたちが悪いことに、素行が気に食わないと必ず難癖をつけてくる。
「ちょっと待って。その隣の席の子って、どのくらい立たされてたの?」
「五分くらい」
母は眉根を寄せて、不満そうに口を尖らせている。
「国ちゃんは、答えがわかってたの?」
大きく頷き返す。当然、褒められると思っていた。だが母は、一層目つきを険しくしている。
「どうして助けてあげなかったの」
意外な指摘に、ぽかんとするしかなかった。
「授業に一所懸命だった先生の気持ちもわかるけど、五分はちょっと長すぎない? 立っていれば答えが出るわけでもないし、逆に緊張して出るものも出なくなっちゃう」
要領を得ないまま、何となく頷いてみせる。それでも母の饒舌は止まらない。