第三章 暗い心に灯がともる
消え去った夢
さて、社長さんは私たちのために、とてもスペシャルな企画を提案してくださっていた。
ヒマラヤの展望スポットの一つ、ナガルコットへの一泊ツアーだ。カトマンズからヒマラヤの山々が見えるのは、本当に天気のよい日に限られる。見えたとしてもかすかに見えるだけで、ある程度標高の高いところに行かなければ、写真で見るような絶景には出合えない。
手配してくださったのは、一二月三一日から一月一日にかけての世紀の変わり目。世界の屋根ヒマラヤを望みながらのミレニアムなんて、なんと素晴らしい二一世紀の幕開けだろう。手を取り合って喜ぶ私たちだった。
しかし、喜びも束の間。そんなに事がうまく運ぶわけはなく、三一日の早朝、旅行代理店よりホテルに電話が入ってきた。それは、次のような内容だった。
「一月一日と二日にストライキがあるから、一日はバスやタクシーなどの交通機関がすべてストップする。一二月三一日にナガルコットに行っても帰る手段がない。だから延期しなければならない」
せっかく用意してくださっていた夢のような幕開けが、突然あっさりと消え去った。ここに来て、天候ならまだしも、ストライキとはなんという不運。ヒマラヤにこんなにも近づいているのに、どんどん遠ざかっていく。