「二人してひでえ面だ。しかしまあ、立ち向かったんだからそうなるわな。得物を振り回すような相手じゃなくてよかったな」

バカラ台の端の席に腰を下ろした猿田は、悠然と煙草に火をつけた。そうして突っ立っている二人をもう一度見遣ると、口に含んでいた煙と一緒に失笑を吹き上げた。

「正義感を燃やすような時代でもねえってのに、お前らみたいな馬鹿がまだいたとはな。俺が来ることは聞いていただろう?」

そう言って呆れ顔をするものの、猿田の目尻は嬉しそうに垂れ下がっている。彼は警察の代わりに、今日のようなトラブルを始末する仕事をしているらしい。もちろんそんな職業があるはずもなく、彼もまた警察に目をつけられている側の人間なのだろう。

「まあ、兄さんらも座れ。面倒な客に絡まれて白けちまっただろうが、まだ早い時間だ。せっかく来たんだから楽しんでいけばいい。ただ、そっちの男前の兄さんは、顔を洗って来たほうがいいな。そのままじゃ野性味が強すぎる」

咄嗟に口元へ手をやった純也は、手にべっとりとついた血を見て、そそくさと奥の洗面所に駆けて行った。

「あの兄ちゃん、自分のほうが男前だと思ってやがるぞ」

猿田の悪戯っぽい横目が、国生の表情をまじまじと窺っている。

「本当のことですから」

国生は淡々と答えて、猿田に勧められるまま遊戯台の席に着いた。

「猿田さん、からかうの、いつもだから、気にしないで」

「気にしてないよ。むしろ純也には感謝してる。本当はあいつ、遊んでる場合じゃないのに」

もし自分一人でここに来ていたら、あの土壇場で身体が動いただろうか。ネクタイ男の横暴を振り返ると、今更ながら全身の力が抜けていくようだった。

「どうする? 遊ぶ?」

所在ない国生を見兼ねたのか、世理はいかにもお愛想といった調子で訊ねた。

「いや、とてもそんな気分じゃない。それより、どうしてこんなところで働いてるの?」率直な疑問だった。彼女は散らかった道具類を並べ直しながら、少し棘のある声を返した。

「こんなところ? 私には、大事な場所」

「でも、さっきみたいな騒動も珍しくないんだろう? それにこの店、違法だし。下手したら君も捕まるんじゃ……」