「え? ああ、そう言えば昨夜はなかなか眠れなくてね、それで看護師さんに睡眠薬を貰えないか聞きに行ったんだった」
十五分程経つと金清はナースステーションの方向から戻ってきた。そこから早送りすると、入院患者が廊下を通ったり、一夏が二回エレベーターで一階まで昇降したりしていたが、それ以外に不審な様子は見当たらなかった。
特に午前零時からは全く人影を見なくなった。午前二時五分、右側のエレベーターが開くと白衣を羽織った蒼が慌てた様子でナースステーションの方へ向かって走って行った。
「午後九時に信永経子は帰宅しているが、それからこの病棟には戻っていないということだ。つまり、彼女は犯人ではない」
金清は自信ありげに言ったが、海智は首を捻った。
「監視カメラで階段とエレベーターは押さえられていて、非常階段は鍵が掛かっている。そして全ての窓は嵌め殺し。つまり、四階病棟はミステリー小説で言うところの密室というわけですね。
でも、経子さんが非常階段の鍵を手に入れていたとしたらどうですか? 長年出入りしているから、手に入れる機会があったかもしれない。向こう側の廊下を通れば、監視カメラにも映らずに済みます」
「でもナースステーションの前を通らないといけないだろう。あの夜看護師さん達はナースステーションにいたんだろう。いくら何でも無理じゃないか」
「そうか・・・・・・」
「やはりこれは医療事故の可能性が高い。カードは警備員さんに返しておくよ」
海智からSDカードを受け取ると、金清は部屋を出て行った。
【前回の記事を読む】医療事故で片付けられた、元いじめ加害者の死。「あいつを殺害したのは、あの子の母親かも…殺したいほど憎んでいるはずだから」
次回更新は2月23日(日)、11時の予定です。
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