がん
死亡率の高位となった。治療法の進歩や発見の早期化によって、5年生存率は上昇している。高齢化に伴って、多重がんが増えた。一つでも、死に繋がる病気、それが時期を変えて別の臓器に発生するのだから、患者の心配や苦悩は容易に想像できるだろう。
がんを克服できるのかどうか、がんの壁を打ち破れるかどうか。がんの治療法は進歩した。しかし、これは、出来上がったがんに対してである。壁はがん遺伝子を持っている。
がん遺伝子によって、正常細胞とは異なり、増殖を続けている。細胞分裂が無限に続く。がん遺伝子の損傷である。最近の遺伝子研究の進歩は目覚ましく、がん抑制遺伝子が見つかり、細胞の増殖抑制、細胞死の誘導などが研究されている。
これでがん発生が抑えられるかどうか研究中であるが、厄介なのは遺伝子突然変異である。これががん遺伝子に起こると、細胞の異常増殖を起こす。突然変異を引き起こすのは、煙草などの刺激物質。
これは早くから知られていて、煙突掃除夫の皮膚がん、東大病理の山極先生による、コールタール発がんがある。また突然変異を起こす原因として、放射線がある。
多量の放射線を浴びた場合、発がんの可能性がある。その閾値の有無については議論の余地はあるが、原爆での研究では、100ミリシーベルトを超えたあたりからリスクが増加する。
胸部エックス線診断では0・06ミリシーベルトくらいである。発がんの可能性は殆どない。福島原発事故で、大量のアイソトープが拡散し、ヨウドアイソトープもあり、それは甲状腺に集まるので、予防のため、ヨウド製剤を多くの人が服用した。
がんの壁は発がんで、遺伝子突然変異を考えると、防げないと思うが、研究者は諦めずに、研究している。出来上がったがんに対する治療は、大きく外科療法、化学療法、放射線療法、免疫療法に大別されている。私は放射線治療を専門にしていた。
出来上がったがんでも、適応されるものは多い。また、緩和療法にも使われることがある。まだ転移していない段階なら、根治治療が可能である。腫瘍に放射線を集中させ、長年の経験から決められた放射線量を照射する。
最近では技術の進歩が著しく、CTやMRIを組み込んで、正確な腫瘍位置を確認しながら、照射できるようになり、放射線量を増やすことで、治療成績は一段と上がった。以前はラジウム針を使って、舌がんなどが治療された。
現在は密封小線源による組織内照射が前立腺がんに行われている。私は舌がんのラジウム針を使った治療が得意だった。伝統的な針の配置を習得した。多数の患者が治癒した。
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