夏になり、蜥蜴(とかげ)が姿を現すと蜥蜴の尻尾切り競争をしました。蜥蜴を見つけ、桃子さんがにらむと、蜥蜴はすぐ尻尾を切り離し草陰に姿を隠しました。猫が蜥蜴を見つけ、猫パンチをしても蜥蜴は知らん顔をして猫の前をゆうゆうと通り過ぎていきました。
ある日、人相の悪い野良猫が猫のテリトリーに入り込みました。猫が怖くて追い出せないでいると、桃子さんが駆け付けてくれて「シャー」と威嚇しました。野良猫は慌てて、後ろを見ることもせず逃げ去りました。
あの頃は楽しかった。猫は微笑みを浮かべました。猫は自分の意識が遠のいていくのを感じました。その時、猫は自分の名が呼ばれるのを耳にして目を開けると庭に桃子さんの姿がありました。猫は桃子さんと並んで座りました。猫の魂は桃子さんの魂に誘われて天に昇っていきました。
桜の古木は猫の遺骸に白い花びらを散らせました。お爺さんの家はもうすぐです。しかし、困ったことになりました。前から歩いてくるのは話の長い斉藤さんのお婆さんです。今日は杖を突いていません。話が長くなりそうです。
「こんにちは」お爺さんと斉藤さんは挨拶を交わしました。
「今日は杖を突いていませんね。膝の具合が良くなりましたね」お爺さんは話が長くならないように差し障りのない話題を持ち出しました。
斉藤さんは「嫁の夕食のメニューが3通りくらいしかなく、それを繰り返しているんです。子供に何が食べたいと聞くと子供は面倒くさいのでハンバーグ次の日はスパゲッティー次の日は唐揚げ次の日はハンバーグといった具合なんです。
レトルト食品も多いし、息子の健康診断の結果では悪玉のコレステロール値が高いので野菜料理も食べさせてほしいなと言うと、忙しくてそんな暇はないと言います。孫が肥満児になるのではないかと心配です」と言います。
他人の家のことに頭を突っ込むことは良くない事だと考え、お爺さんは「どこの家にもありますよね」と軽く答えました。
「今日は、まだ、昼食を済ませていないので」と話を切り上げました。
家に帰り、昼食を終えたお爺さんは紙袋から碁盤と碁石を取り出しました。近所にガラクタを集めて売っている店があるので覗いてみたら店の隅にほこりをかぶった碁石と碁盤があり、値段を聞くと2千円で良いと言うので買ってきました。老人施設ではコロナ対策で今のところボランティア活動はお断りしているとのことでした。
【前回の記事を読む】猫の社会にも人間と同じように介護施設のあることをご存じですか。猫は死を恐れません。
【イチオシ記事】喧嘩を売った相手は、本物のヤンキーだった。それでも、メンツを保つために逃げ出すことなんてできない。そう思い前を見た瞬間...