第三章
一年一組
「そういえば駅のロータリーに停まっていたバスに隣のクラスの女子が乗っていました」
藤堂刑事は手帳にメモをしている。その手元を見ながら頭の中で宮園についてどう説明するか組み立てていく。僕は人差し指で頬を掻いた。宮園の行動について警察が違和感さえも持ってほしくない。
しかし先ほど藤堂刑事が漏らしていた通り、いつものように授業に参加している生徒たちのアリバイは確保されているのだ。まさか学校の生徒全員が犯人と考えるのは現実的ではない。全員が全員、先生を殺したいと思うほど強い感情を持って一致団結できるはずがないからだ。
集団催眠などが仮に可能だとしても、そんな手間暇をかけるくらいなら一人で夜に紛れて殺した方が良い。何か細工をするのならまだしも、当然犯行に出かけるのならアリバイは成立しなくなる。
一人で殺すにしたって、大勢の生徒たちのアリバイがあって自分にはアリバイがない状態で殺人を犯すなんて自分が犯人だと言っているようなものだ。
当然、犯行のために先生が生徒を疑っているわけではないのか。常識の通用する犯人なら、自分が疑われやすくなる状況で犯行を犯すとは考えられない。そう考えると今日起きた事件の犯人は学校の生徒ではないはずだ。
しかし警察はそう考えられないはずである。全て調べて懸念材料を消しておかなければ裁判で崩れてしまうからだ。衝動的に犯行に至ったと解釈できる。あやふやな論理よりも証拠を重んじるのは明白だ。