【前回の記事を読む】「なんでその子の名前を知っているの」刑事の見透かそうとする目が怖い。だが彼女の疑いが晴れるなら、僕は犯人になっても構わない

第三章

一年一組

二人が遅刻したことは事実である。調べればすぐ判明することで、僕にできることと言えば、その事実に対するイメージを少しでも心証がよくなるように変えることだ。覚悟は決めた。

「そうですね」

「彼女は遅刻しがちなの?」

そんなことはない。まだ入学して一か月くらいしかたっていないとはいえ一度も遅刻していない。宮園が疑われるようなことがあってはならない。宮園は昨日先生に呼び出されていたがそれは不自然なことだった。

宮園は二組の人間で、樹先生と直接的な関わりはないはずだから。なぜ二人きりでしかも部屋まで用意して、何の話をしていたのか。そしてその直後のこの事件。繋がりがあるのか思いつかない。けれど客観的に見れば宮園が怪しすぎる。

警察も宮園について探るだろう。ならば、僕の独りよがりで構わない。疑われる側に宮園を引きずり込んではならない。

だから僕は口角を犬歯が見えるほど上げて首を傾けた。宮園がなぜ今日に限って遅刻したのか、その真意を僕は知らない。けれどどうにかして疑われないように言い訳を作ることができればそれでいい。そのために僕はどんな汚れ役でも受け入れよう。

「いいえそんなことはありません。ただ、原因は僕にあると思うんです」

藤堂刑事が椅子に座り直して、姿勢を正す。

「実はさっきは言えなかったんですが、昨日、宮園に泣かれてしまって」