藤堂刑事の眼がまた鋭くなる。蛇に睨まれているようだ。僕は膝の上のこぶしをぎゅっと握った。巻き込んだジャージのズボンがすれてジュッと音を立てたが気にしている場合ではなかった。
「どうして、泣かせたの?」
「それを言う必要があるんですか?」
「そうだねえ。今日に事件があったわけでなければ、それでよかったけれど」
「まあ、隠すことでもないんですが。さっき言った通り、僕たちは小学校の時、いや、幼稚園の時から一緒にいた幼馴染だったんです。僕の母親の自殺さえなければそのまま一緒に今まで過ごしたと思うんですけどあの一件のせいで、別れざるを得なくて。それで昨日、僕は宮園と一緒に帰りがてら、これまでの思いを伝えたんです」
伝えられたのは僕だったけど。目撃者は公園にいた子どもたちだ。子どもたちが僕らの会話を一言一句覚えているとは思えない。宮園が泣いていたという証言だけするはずだ。
「ほう」
刑事さんも大変だよなと同情する。高校生の恋愛話を聞かなければならなくなるなんて。興味もないだろうに。
「それで、僕は彼女を泣かせてしまいました」
藤堂刑事は目を丸くした。
「近づくなって言われちゃいました」