だから本来なら宮園を見かけたことは話したくはなかった。それを警察に言ってしまうと宮園にもアリバイがない可能性が出てくる。犯行時刻がいつなのか教えてくれないので分からないが、少なくとも僕と同じように今日に限っていつもと違う行動をしているということは、警察にとっても心証がよくない。かといって黙っておいたとしても警察はすぐに宮園の遅刻を調べ上げる。

というかとっくに調べているかもしれない。出欠の結果を先生たちから聞きだせばいいのだから。宮園が遅刻していると知れば警察はすぐに宮園の足取りをたどるだろう。防犯カメラが普及しているのでそれらを利用すれば、おそらくすぐに疑いは晴れるはずだ。

しかし、そうならなかった時のことも考えなければならない。蛇足になっても構わないから証拠を提示した。宮園の疑いが晴れるなら、僕は犯人になっても構わない。

「その子の名前は分かるかい?」

「ええ。一年二組の宮園小春さんです」

手帳に書き込む藤堂刑事の眉が痙攣したように蠢いた。

「そういえば何か部活動をしているのかな」

「宮園ですか。いえ、していないはずですよ」

「いや、宮園さんじゃなくて、君のほうだよ」

「僕は何もしていません。帰宅部です」

「そうか。そういえばなんでその子の名前を知っているの」

人生で今日ほど緊張している日はないと思う。藤堂刑事の見透かそうとする目が怖い。言葉に詰まった僕をあざ笑うように藤堂刑事はペンを指揮棒のように振った。

「だって君たちまだ入学して一か月くらいしかたっていないよね。自分のクラスメイトさえ覚えていないだろうに。関わりのない隣のクラスの女子の名前を知っているのはおかしい気がして。それが元々中学校が一緒とかなら分かるんだけど、そうじゃないんでしょ」