「それは、僕と宮園は小学生の時、一緒だったからです。僕は不本意だったけど小学校一年の時に別れてしまって。鳥居美晴と言えば警察の方なら分かるんじゃないですかね。それとも事件が多すぎて覚えていられないですかね」

「いや、覚えているよ。あの焼身自殺の」

「ええ」

警察は事件について知っている。全ての情報を明かさなくても分かっているはずだ。微笑んだ。藤堂の眉が上がる。頷く僕を見て藤堂刑事は胸ポケットからジップ付きの小袋を取り出した。よく見るとグミだ。オレンジ味だろう。橙色の半透明のグミを太い指で慎重に一つつまむと藤堂刑事はそれを素早く口に放り込んだ。

「いる?」

藤堂刑事は首を傾げた。しかし僕が答えるより先に「あ、ごめん。君にはあげられないんだ」などとのたまった。じゃあ聞くなよと僕はむすっと唇を尖らせる。あからさまな嫌がらせである。

「ところで、宮園さんも遅刻していたのか」

僕はそうですねと頷いた。藤堂刑事は目を細めた。まだグミが口に残っていたのかもごもごと顎が動いている。それどころか口許には笑みを浮かべてさえいる。グミがおいしいからではなさそうだ。僕の表情を確かめるように身を乗り出した。僕は何か間違えたのだろうか。視線が泳ぎそうになるのをぎゅっと眉間に力を込めて我慢して刑事と向かい合う。

「朝、君と宮園さんの両方が学校を遅刻したの」

心臓を握られるような感覚がした。僕は無意識に自分の腕を強く掴んだ。

    

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