【前回の記事を読む】このままでは遅刻した彼女に放火の容疑が... 必死にアリバイを説明するも、「君は矛盾に気が付いている?」と刑事は言った。

第三章

一年一組

藤堂刑事は目を光らせた。脳内で警報が流れる。何を間違えた。どこに矛盾があった。

「それならそのジャージ、君のじゃないよね。それを借りたのはなぜだ。宮園さんと接近することを避けるために家を出ることを止められたのなら、君は学校に行く予定だったんじゃないか。制服を着ていないのはなぜ?」

ジャージの刺繡は僕と別人の名前だ。しかもズボンも同じく、そして上着と違う人の名前である。気付かない方がおかしい。

「制服を着たら叔母に止められるじゃないですか」

乾いてくっつく口をこじ開けてなんとか言い訳をする。

「鞄にでも、制服を入れておけばいいだろ? 学校に行くつもりだったのなら」

言い訳が浮かばなかった。

「どうして黙り込んでしまったんだい? もう、君の茶番に付き合いきれないよ」

黙り込んだ僕に追い打ちをかけるように言葉を重ねる。僕の負けだ。さすがに警察官はプロである。苦し紛れに最後の抵抗に出る。

「それは、叔母に制服を隠されてしまったからで」

「その徹底ぶりの割に簡単に監視をほどくとは思えないんだよ。もうやめなさい。君が嘘を吐くのは、宮園さんのためか?」

「いいえ。違います」

藤堂さんは半ば呆れながら笑った。

「もう分かったから。やめなさい。君が宮園さんをかばえばかばうほど、怪しく見えてくるよ」

「すみません」

項垂れる他なかった。悔しい。宮園のための証言だったのに、宮園の心証を悪くしてしまった。無力さに打ちひしがれる。

「君、自分の立場分かってる?」

「ええ、けれど先ほどおっしゃっていたじゃないですか。事故か事件か分からないって」

「そうだね。でも警察は、事件性を考慮して捜査している。つまりどういうことか分かるね」

「事件であれば第一に僕が疑われるってことですね。けれど僕はもちろん先生に危害を与えていませんし、与える理由もありません。宮園だって絶対ありえないし、それに動機もありません」

頭の中で誰かが本当にと唇を歪めて笑っている。僕はそれに気が付かないフリをした。

「そうとは言うが、君。動機はそこまで重要じゃないんだよ。もちろん警察として調べなければならないけれど、トラブルなんていろいろあるんだから、それらしい理由をくっつけてそれが動機だと言い張ればいいんだ。要は裁判所で裁判官が納得できる動機があればいいだけのこと、よくもまあ、あんなに長いこと嘘をついたねえ」

呆れとも称賛ともつかない言葉を吐きながら背もたれに体を預けた。

「君の献身は理解した。宮園さんをかばいたいのは分かったよ。まあ、君の言う通りならバスの乗車記録とか調べれば宮園さんのアリバイは証明されるだろうから安心しな」

「そうですよね」

肩から力が抜けた。